6×86とは?CyrixがPentiumやPentium Proに挑戦した革新的x86互換プロセッサの技術と性能の全貌
6×86はCyrix社がIntelのPentiumやPentium Proに対抗するために開発したマイクロプロセッサです。
内部クロックは100MHz~150MHzまで展開され、性能はPentium相当とされています。
x86命令体系に互換性があり、深いパイプラインや二命令同時発行、アウトオブオーダー実行などの先進技術を搭載しています。
また、6x86Lはプロセスルールを0.35μに下げ、デュアルボルテージ設計を取り入れた派生品です。
6×86の開発背景
Cyrixは、1990年代に登場した企業で、Intelの支配的な市場環境に挑戦するために革新的なx86互換プロセッサーの開発を進めました。
市場における独自のポジションを確立するため、低価格ながらも高い性能を発揮する製品ラインナップを用意し、競合他社との価格競争や技術革新の波に乗った戦略を展開しました。
Cyrixの誕生と市場競争
Cyrixは、PentiumやPentium Proが築いたIntelブランドの強固なイメージに対抗すべく、あえて技術革新を追求する企業として設立されました。
主要な特徴は、以下の点に集約されます。
- 高いコストパフォーマンスを実現するため、設計と製造コストを抑える工夫を行いました。
- 技術的には、二命令同時発行やアウトオブオーダー実行など、先進的な命令処理技術を採用し、シングルスレッド性能の向上を狙いました。
- 市場では、Intel製品に比べて低価格ながらも性能を引き出せる点が評価され、特にコスト重視のユーザー層に受け入れられるきっかけとなりました。
PentiumおよびPentium Proとの位置付け
6×86は、IntelのPentiumおよびPentium Proと直接的に競合する製品として位置付けられました。
性能面では以下のような特徴を示します。
- 内部クロックは100MHzから150MHzまでの幅広いラインナップを展開し、それぞれがPentium-120MHzからPentium-200MHz相当の性能を発揮する工夫がなされました。
- 内外クロック倍率は標準で2倍となっていましたが、一部では3倍の設定も選択可能で、柔軟な性能調整が可能な設計となっていました。
- 互換性が高いため、既存のソフトウェア資産との連携が容易であり、これにより市場における採用障壁を低減させることに成功しました。
製品概要と性能特性
6×86製品は、幅広いクロック周波数のバリエーションと高度な技術を搭載し、PC市場における競争力を大きく向上させる要素が多数盛り込まれています。
以下では、製品のラインナップや性能特性について詳しく解説します。
製品ラインナップとクロック仕様
6×86は、内部クロック周波数100MHz、110MHz、120MHz、133MHz、150MHzといったラインナップで構成され、それぞれが市場で使用されるPentium相当の性能を提供するよう設計されました。
これにより、ユーザーは求める性能とコストのバランスに応じた選択が可能となっています。
内部クロック周波数の展開と性能目安
- 内部クロックが100MHz〜150MHzまでの幅が用意され、用途や予算に応じて最適なモデルを選ぶことができます。
- 各モデルは、対応する外部クロックとの組み合わせにより、Pentium-120MHzからPentium-200MHz相当のパフォーマンスを発揮するように設計されました。
- 製品毎の性能目安は、クロック周波数だけでなく、命令処理能力やキャッシュ設計によりさらに補完され、実際の動作環境では高い実用性を示します。
内外クロック倍率の設定の特徴
- 標準設定は内外クロック倍率2倍で、設計のシンプルさと安定性が重視されました。
- 3倍の倍率設定も選択可能で、より高い性能を求める用途に対応する柔軟性を持たせています。
- 内外クロックの設定は、製品のターゲットとする市場ニーズに合わせたオプションとして提供され、エンドユーザーにとってメリットが大きい設計となっています。
x86互換性とピン配置の対応
6×86は、従来のx86アーキテクチャとの高い互換性を実現するため、命令体系やピン配置においてIntelのP54Cと互換性を持たせた設計となっています。
- 命令体系はx86互換のため、多くの既存ソフトウェアとの互換性が保証されています。
- ピン配置の互換性により、設計変更なしで多数のマザーボードに対して容易に搭載が可能です。
- この互換性により、既存システムのアップグレードやコスト削減が期待され、市場における採用促進につながりました。
先進技術の詳細
6×86は、最新の処理技術を駆使した先進的な設計が印象的なプロセッサーです。
内部構造や実行方式において、従来のシンプルな設計から一歩踏み込んだ技術が盛り込まれています。
パイプライン構造と命令実行方式
6×86は、7段のパイプライン構造を持ち、各段階で異なる処理を分担することで高速な命令実行を実現しています。
7段パイプラインの各段階の役割
- 命令フェッチ:メモリから命令を取得し、パイプライン全体の供給を行う段階です。
- 命令デコード:取得した命令を解析し、実行に必要な情報に変換します。
- 実行準備:命令のためのオペランドの準備や依存関係のチェックを行うため、前段階からのデータを整理します。
- 実行:実際の演算処理を行い、算術演算や論理演算などの基本計算を処理します。
- メモリアクセス:必要に応じたデータの読み書きを行い、I/Oとの連携を担う段階です。
- 分岐予測:次に実行される命令の予測判断を行い、パイプラインの効率を高めます。
- 書き込みバック:処理結果をレジスタやメモリに保存する最終段階となり、次の命令サイクルへの橋渡しを行います。
二命令同時発行およびアウトオブオーダー実行
- 二命令同時発行により、一度に複数の命令が同時並行で処理可能となり、実効性能が向上しました。
- アウトオブオーダー実行機能は、命令間の依存関係を動的に判断し、順序が前後しても正確に処理を完了させる仕組みです。
- これにより、パイプラインの待ち時間が大幅に短縮され、全体的なスループットの向上に寄与しています。
レジスタ管理とキャッシュ設計
6×86は、レジスタの効率的な割り当てと高度なキャッシュ設計により、命令実行の効率化を実現しています。
レジスタリネームの仕組み
- レジスタリネームは、物理レジスタを論理レジスタと動的に対応させ、命令間の依存関係を解消する技術です。
- この仕組みにより、実行中の命令の競合状態が回避され、パフォーマンスのボトルネックが軽減されます。
- 複数の命令が同時に発行された際にも、正確なデータ管理が行われ、効率的な処理が続けられます。
16Kbytesユニファイドキャッシュの特徴
- コードとデータが統合されたユニファイドキャッシュは、キャッシュヒット率の向上に寄与し、全体的な処理速度を高めます。
- 16Kbytesという容量は、コンパクトながらも多くのアクセス要求を迅速に処理できるバランスの取れたサイズです。
- このキャッシュ設計により、内部のデータ転送が最適化され、パイプラインのスムーズな動作が支援されます。
分岐予測と見込み実行の機能性
- 分岐予測機能は、条件分岐命令の結果を事前に予測し、パイプラインの空洞化を防ぐための重要な役割を果たしています。
- 見込み実行の機能は、予測結果に基づいて命令を先行して実行し、実際の分岐判断が完了する前に処理を進めることで、全体のレスポンスを向上させます。
- 両機能の連携により、分岐命令による処理遅延が最小限に抑えられ、安定した高性能な動作環境が提供されました。
6x86Lへの進化と製造体制
6×86の後継として登場した6x86Lは、製造プロセスの微細化と電圧管理の改善により、さらなる性能向上と消費電力の低減を実現しました。
従来モデルとの違いを以下に示します。
プロセスルールの変更とデュアルボルテージ設計
- プロセスルールが0.35μからさらに微細なプロセスに変更され、動作周波数の向上や消費電力の低減が実現されました。
- 6x86Lでは、従来のシングルボルテージに対してデュアルボルテージ設計が採用され、コア電源とI/O電源を分離することで、システム全体の安定性が向上しました。
- この変更により、クロック周波数の高い動作時でも発熱や消費電力の問題が効果的に低減され、より高い信頼性を保持できるようになりました。
製造パートナーと自社ブランド展開
6×86シリーズの製造は、Cyrix単独で行われたわけではなく、複数の大手半導体メーカーが関与しており、市場での信頼性をさらに高める要素となりました。
IBMおよびSGS-THOMSON Microelectronicsの取り組み
- IBMは、製品の高い品質管理と製造技術を背景に、6×86の製造に参加し、自社ブランドとして市場に提供しました。
- SGS-THOMSON Microelectronicsも、同様に高度なプロセス技術を活用し、信頼性の高い6×86製品を供給する体制を整えました。
- 両社は、プロセスルールの微細化や電圧設計の最適化において、互いに協力して製造プロセスの効率化と製品の安定供給に努めました。
まとめ
この記事では、CyrixがIntel製Pentiumシリーズに対抗すべく開発した6×86の背景と、市場における戦略、製品ラインナップの特徴を解説しています。
内部クロックや内外クロック倍率といった仕様、7段パイプラインと命令実行技術、さらにはレジスタ管理やキャッシュ設計と分岐予測の先進技術について説明。
その上、プロセスルールの改良やデュアルボルテージ設計を採用した6x86Lと、IBMやSGS-THOMSONによる製造体制の取り組みまで、6×86の全貌を理解する内容となっています。Cyrixが開発したPentium/Pentium Pro対抗のマイクロプロセッサー。内部クロック100MHz/110MHz/120MHz/133MHz/150MHzの製品がラインアップされており、それぞれPentium-120MHz/133MHz/150MHz/166MHz/200MHz相当の性能を発揮するとされる。内外クロック倍率は標準で2倍である(3倍も選択できる)。命令体系はx86 CPUと互換で、ピン配置はP54Cと互換性がある。アーキテクチャーとしては、深さ7段という深い2本のパイプラインを持ち、2命令同時発行、アウトオブオーダー命令実行、レジスタリネーム、16Kbytesの容量を持つコードとデータのユニファイドキャッシュ(単一キャッシュ)、分岐予測、見込み実行などを特徴とする。6×86のコア電源とI/O電源は共通である(シングルボルテージ)。この6×86のプロセスルールを0.35μに下げ、デュアルボルテージを採用したのが、6x86Lである。6×86の製造はIBMやSGS-THOMSON Microelectronicsなどが行なっており、両社とも自社ブランドで6×86を販売している。6×86の開発コードネームは「M1」と呼ばれていた。